それは一つの不幸から始まった。
本当のことを言えば、俺は事件の第一発見者としての妙な責任感と、この人はどうなるかのだろうかと不安と、気がついたらインタビューしようという仕事意識から救急車に乗った。
だから、彼女とはなんともなかった。
その日、久しぶりに休みが取れた俺は仕事でもないのに早起きをしてしまった。
なので、テキトーに朝の散歩としゃれこんでいた。
車はあまり通らず、人通りも少ない。
あえて言うならば、街路樹(がいろじゅ)の葉っぱの間から光が差し込み、風が吹くたびに葉っぱが歌う。
そんなありふれた場所。
その時俺は、そこであんなことが起きるとは露ほどにも思っていなかった。
俺は堂々と欠伸をしながら、交差点に近づいた。
そこには先客が行って、まだ遠くて分かりにくいが、どうやらスーツを着た女性のようだった。
スーツを着ているが、会社に行くのとはどこか違う。
買い物だろうか?女性は信号機のランプが青いになったのを確認して、車道に足を振り入れた。
次の瞬間、女性は真横に思いっきり飛んだ。
そのまま車道の真ん中に寝てしまった。
赤い敷布団がいつの間にか敷いて。
最初、それにはそう見えた。
そして仕事かすぐに状況を読み込んだ。
女性から数メートル後ろに一台の車が止まっていた。
赤い車体スプレーで書かれた落書きが目立つ、ほかにもいろいろといじったあとがある。
どう見ても違法者だ。
そいつはいきなりuターンをして消えていた。
ひき逃げか?俺は呼んだ。
だが俺は車を追わず、女性に寄りかけ、その場でできる応急処置を施して、そして救急車を呼んだ。
それから駆けつけた救急車に乗り、病院に向かった。
後日俺はその事件の記事を書いている時間、同僚に犯人が捕まったことを聞いた。
犯人は未成年のソクガキだった。
でも薬の乱用者だったが、救いようがない。
幸い、彼女は大事に至らなかった。
医者が言うには、俺の応急処置が良かったんだそうだが、俺にはあまり実感が湧かない。
たまたま取材の人物に教えてもらった通りにやっただけだ。
個室の病室に行くと、その時彼女は綺麗な人だということを知った。
しばらく病室で、会社にこの事件についての資料をお送りながら、彼女に付き添っていると、そのうち彼女の家族が病室に現れた。
彼女の父親らしき男が入りなりいきなり俺の手を握り、涙でくしゃくしゃになった顔を何度も縦に感謝の意を表した。
そして、救急車に乗って付き添ってくれたそうですね。
あなたは娘の縁のある方で?と聞かれた,思わず,うんと答えてしまったのが行けなかった。
父親含め,彼女の家族は,俺が彼女とそういう関係と勘違いしてしまった。
その日一日彼女に付き添う羽目になった。
彼女が目覚めれば,こんな茶番が終わる。
俺はそう思いっていた。
しかし彼女は一ヶ月経っても目を覚まさなかった。
医者の話では,怪我の目よりも大したことはない,いつ目が覚めてもおかしくないはずだった。
だが,彼女が目を覚まさなかった。
ついでに俺はというと,家族に誤解されてからというもの、仕事の合間を見ては彼女の病室を訪れるようになった。
と言っても,俺にはなんにもできなかった。
俺にいたところでなんにも変わらないのだ。
俺は彼女の下に訪れ、眠る彼女を話しかけた。
もちろん返てこないことを承知して,会社でのことを愚痴ったり,犯人が捕まったことを報告したり、これまでの経緯を話したり,単に自分の話したいを話していた。
ただの暇つぶしだった。
そう,はじめの頃は。
彼女の病室を訪れるうち、俺は彼女の寝顔を見つめながら考えよういなった。
彼女はどん目をしていて,どんな声をしていて,どんなふうに笑うのだろう?そんなことを毎日考えていた。
すると今度は,彼女は俺の会話について考えるようになった。
俺が話したことに彼女はどう返すだろうか?正直、何も返ってこない会話に飽き飽きしていたところだったので、ちょうど良かった。
そして、ある日。
俺はそんなひとり遊びながら、一線を超えてしまった。
あなたが好きです。
俺の頭の中の彼女が、俺にそういった。
俺はピックりしてしばらく放心していた。
自分が考えたことなのに、それと同時に俺は自分の中で芽生えた気持ちを知った。
知ってしまった。
それからは生活がままならなくなった。
彼女の寝顔が俺の網膜に張り付いて離れなかった。
いつでもどこでも彼女の寝顔が浮かんで来る。
気がつけばぼうっとしていたり、気がつけば人の話が終わりしまったり、朝起きてみれば枕を彼女に見立てて抱いていたり、記事に誤りが多くなったり、目的の駅を降り損ねることが日常になった。
この時の俺は、一つを間違えれば、彼女を襲っていたかもしれません。
しかし俺は彼女に触れることはしなかった。
所詮は他人だから。
よく抑えたと思う、本当にでも、俺は彼女の病室に行く事だけは抑えられなかった。
そんな、危険と隣り合わせの日常を送っていた俺は、彼女の病室に行こうに病院に行った時、顔見知りになった看護師から、彼女が意識が戻りましたよ。
と言われた。
慌てて聞き返した。
その時ふと思った。
何で私は慌てているのだろう?嬉しいことなのに、俺は、、俺は自分でも知らないうちに、彼女が起きないことを望んでいる。
最悪だ、俺は本当に最悪だ。
それと、彼女の家族も連絡しておきましたから、後もう少しで来ると思います。
看護師からそれを聞いた瞬間、俺の腹は決まった。
もうやめよう。
こんな茶番。
消えよう。
彼女の前から。
それが俺のためであり、なりより彼女のためだ。
俺は病院から出ていた。
看護師が俺の様子を見て、怪訝そうにしていたが、俺は気にしなかった。
病院から出ると、ちょうど雨が降ってきた、俺は気にしなかった。
病院の敷地から出て、少し歩くと、背中のほうで車の音がして急いだように病院に入っていた、やはり、、、俺は気にしなかった。
雨脚が強くなって、とうとう土砂降りになったこの雨が、私の思いや、彼女の姿が俺の網膜から洗い流してくれればいいのに、その時ふと思った、なんで自分が慌てているのだろう?嬉しいことなのに、無理だろうか?やはり彼女は消えてくれないだろうか?いや、忘れよう。
普通の生活を続けよう。
そうすればきっといつか忘れられるはずだ。
そうすれば。
待って!後ろから、突然の呼びとめる声。
俺は振り向いて驚いた、彼女がいた。
病院を抜け出してきたのか?松葉杖をついた格好で、傘も挿していないあなたなんでしょ?私の恋人だって嘘を付いたのは?俺の思った通りの目で、声で、彼女は言った。
「ねえ、あなたな何でしょ?」懇願するように彼女は言った。
その声が普通のものではない何かがあった。
「あなたと、あなたの家族に悪いことをした。
俺はあなたとはなんの関係もない、他の他人だ。
」だから、俺は言った。
突き放すように、彼女が怒っていると思ったから。
「そう、他人よう」「なら、もういいだろ、俺は忘れたいんだ、忘れさせてくれ。
」立ち去ろうとした。
「私忘れたくない」その一言を聞いて、俺の足は止まった。
「あなたは何を知っているんだ?」俺が聞くと彼女は答えた。
私はずっと夢を見ていた。
寝ている私に、誰かが語りかけてくれる夢。
愚痴、私を引いた犯人が捕まったことだったり、お父さんが勘違いしたことだり、、、その人はいっぱい私に話しかけて来てくれた。
でも私にはその人の顔が、白くぼんやりとして見えなかった。
どんな顔をしていて、どんな声をしていて、どんな笑顔なのかわからなかった。
だから私知りたかった。
私の中であなたの存在は大きくなった。
そして私はやっと会えた。
彼女は弱々しい体で、しかし強い意識を持った目で俺を見た。
「起きてあなたの話を聞いたとき、まさかっと思った、けど、他になんにも考えなかった、私は、あなたが好き」彼女の瞳から、ボロボロと涙がこぼれた。
俺はしばらく、なんにもできずに立ち尽くした。
そういえば、そんなことが聞いたことがある。
意識不明の人間を覚醒させる方法として、その人にひたすら語りかける治療ほほ方法があると。
不意に彼女の体がぐらついた。
俺は急いで駆け寄って、その体を抱きとめた。
応急処置をして以来、二度目に触れた彼女の体は、あの時以上に華奢で、強く抱きしめたら折れてしまいそうで、近くにいるのに消えてしまいそうなほど儚かった。
耳元で、彼女だけに聞こえるように囁く。
「一ヶ月以上寝っぱなしの体で、無理するなよ」「ごめんなさい」彼女も俺にだけ聞こえるように耳元で囁くような声で素直に謝った。
「いや、いいんだ」そう言って。
俺は腕に力を込めた。
俺も、、、俺もあなたが好きた。
そして俺たちは笑った、お互いが知りたかった笑顔。
雨が振り続けた。
祝福するように。
今の俺には、雨が地面に落ちる音が盛大な拍手に聞こえた、それは、一つの不幸から始まった、そして不幸は幸せに変わって、二人を見守っている。
新雪雪を音を立てて降りていることを、僕は三年ぶりに思い出していた。
赤くなった耳に感覚がほとんど残っておらず、それでもゴウゴウという音だけが鼓膜に響いていた。
バス停を降りて五分。
すでに靴の中で雪解けの水が足を湿らせていて、頭や肩には雪が積もり始めている。
早朝だからと親の迎えを断ったことは、僕は早く後悔し初めていた。
家に辿りついたころには、僕の黒いコートはもうすっかり白くなっていた。
そして憎たらしいことに、たかだか十分二十分の間に吹雪が大分収まっていた、全く、とんだ歓迎の仕方、門を抜く、手で服についた雪を払いながら、庭を歩く。
一歩進むたびにしゃりしゃりと雪が鳴った。
屋根や塀には遠慮無く雪が積もっていた、都内に住んでいてはあまりお目にかかれない景色だなと改めて思った。
我が家と隣家を隔てているコンクリートの塀に近づいて、それがまだ比較的に新しいものであることがわかる、小さいこき、これはコンクリートじゃなく、木製の塀で仕切られていた、それをどうでもいいことを覚えているのは、多隣に住んでいたお姉さんを覚えていたからだ。
隣のお姉さんは、物心ついたこきにすでに僕のお姉さんだった、僕は小さい時からお姉さんにはいろいろ可愛がって貰っていた、よく遊んでもらったり、向こうの家族とご飯を食べたり、お菓子をよくもらったりしていた。
あの時僕は、学校の友たちよりも親戚のおじさんよりも、お姉さんが大好きだった、お姉さんはいつも笑っていた。
喜怒哀楽のうち、怒と哀だけがごそっと抜け落ちているじゃないかと思うくらい、穏やかな人だった、。